ピラティス

ピラティスで骨盤底筋は鍛えられる?尿もれ対策の効果と限界を検証

「くしゃみをしたときに少し漏れる」「産後からずっと下腹に頼りなさがある」——こうした悩みは非常に多いのに、人に相談しにくいテーマです。

骨盤底筋は、体の奥にあって外からは見えず、動かしても分かりにくい筋肉です。だからこそ「鍛えているつもりで、まったく違う場所に力を入れている」という状態が起こりやすい部位でもあります。

私はNESTA公認パーソナルフィットネストレーナー(NESTA-PFT)として指導し、また1児の母として産後に自分の体で向き合ってきました。この記事では、ピラティスと骨盤底筋の関係を、できること・できないことを分けて解説します。

※本記事は一般的な情報提供であり、診断・治療の代わりにはなりません。尿もれや骨盤内の違和感が続く場合は、泌尿器科・婦人科の受診を優先してください。治療中の方は主治医の指示が優先されます。

(本記事の公的情報の参照日: 2026年7月26日)

骨盤底筋とは何か

骨盤底筋群は、骨盤の底にハンモックのように張って、膀胱・子宮・直腸を下から支えている筋肉の集まりです。

主な役割は3つあります。

  1. 内臓を支える(下垂を防ぐ)
  2. 排尿・排便のコントロール(尿道や肛門を締める)
  3. 体幹の安定に関わる(腹横筋・多裂筋・横隔膜とセットで働く)

3つ目が、ピラティスと直接つながる部分です。骨盤底筋は単独で働いているのではなく、横隔膜(上)・腹横筋(前後)・多裂筋(背中)と連動して、体の中に「圧の入った容器」を作っています。この容器がしっかりしていると、体幹が安定します。

弱くなる主な原因

  • 妊娠・出産(長期間の負荷と分娩時のダメージ)
  • 加齢・閉経にともなうホルモン変化
  • 長時間の座位(デスクワーク)
  • 慢性的な便秘やせきで腹圧がかかり続ける
  • 体重増加

産後の方だけの問題ではありません。デスクワーク中心の生活が長い人も、じわじわ機能が落ちていきます。

ピラティスで骨盤底筋にアプローチできる理由

ピラティスは呼吸と体幹の使い方を土台にしたエクササイズです。ここが骨盤底筋と相性のいい理由です。

呼吸と連動して自然に動く

骨盤底筋は横隔膜と連動しています。息を吸って横隔膜が下がると骨盤底筋は下方向に伸ばされ、吐いて横隔膜が上がると骨盤底筋も引き上がります。

つまり正しい呼吸をしているだけで、骨盤底筋は毎回動いているわけです。ピラティスの胸式呼吸を練習することが、そのまま骨盤底筋のトレーニングの入り口になります。

呼吸のやり方はピラティスの呼吸の仕方でくわしく解説しています。

「締める」だけでなく「ゆるめる」を扱える

骨盤底筋のトラブルは、弱っているケースだけでなく、緊張しすぎてゆるめられないケースもあります。締める練習だけを続けると、後者の場合はかえって症状が悪化することがあります。

ピラティスは呼吸に合わせて締める・ゆるめるを繰り返すため、この両方を扱えるのが利点です。

うたぴん
骨盤底筋は「がんばって締める」と、お尻や内ももに力が逃げてしまいがちです。指導していて多かったのは、お尻を固めて「効いてます!」と言うパターン。骨盤底筋そのものは、息を吐きながらふわっと引き上がるくらいの感覚です。力み方を覚えるより、脱力の質を上げるほうが近道でした。

骨盤底筋を意識するエクササイズ3つ

いずれも痛みが出ない範囲で。産後の方は必ず産科医の許可を得てから始めてください。

1. 呼吸だけのエクササイズ(最重要)

仰向けで膝を立てます。息を吸って肋骨を横に広げ、吐きながら「エレベーターが1階から2階に上がる」イメージで骨盤の底を引き上げます。吸うときは力を抜き、下がるのに任せます。

5〜10回。これだけで十分な練習になります。強く締めないことが最大のコツです。

2. ペルビックカール(ヒップリフト)

仰向け・膝立ての姿勢から、息を吐きながら背骨を一つずつ床から剥がすようにお尻を持ち上げ、吸って止め、吐きながら背骨を一つずつ戻します。

腰を反らせて一気に上げるのではなく、背骨を分節的に動かすのがポイント。骨盤底筋と体幹が連動して働きます。5〜8回。

3. 内ももを使ったブリッジ

上のペルビックカールで、膝の間にクッションや小さめのボールを挟んで軽く押しながら行います。内転筋を使うと骨盤底筋が働きやすくなります。強く挟みすぎず、軽い圧で。5〜8回。

うたぴん
産後、私が最初の2週間にやっていたのは1番の呼吸だけです。強度としてはほぼゼロですが、体幹に意識を向ける練習としてはこれで十分でした。骨盤底筋は目に見えないので、動いている実感がなくても焦らないでください。変化に気づくのは「動作のとき」です。私の場合、抱っこのときの腰の負担が軽くなったことで、後から効いていたと分かりました。

期待できること・できないこと

期待できること 期待できないこと
骨盤まわりの安定感 尿もれが必ず治ること
体幹と連動した姿勢の改善 骨盤臓器脱など医療的対応が必要な状態の治療
排尿コントロールに関わる筋の機能向上 「骨盤のゆがみの矯正」
産後の回復の土台づくり 数回での劇的な変化

効果には個人差があり、変化を感じるまで数週間から数ヶ月かかるのが一般的です。

そして重要な点として、尿もれや下垂感には医療的な対応が必要なものもあります。運動で様子を見ているうちに悪化させないよう、症状が続く場合は泌尿器科や婦人科を受診してください。

骨盤底筋トレーニングの医学的な位置づけ

「骨盤底筋トレーニングは医療の現場でも行われている」という説明は、公的な診療ガイドラインで裏づけがあります。

英国NICEの診療ガイドラインNG123(女性の尿失禁・骨盤臓器脱の管理)は、腹圧性または混合性の尿失禁がある女性に対して、「指導つきの骨盤底筋トレーニングを少なくとも3か月間、第一選択の治療として提供すること」を推奨しています(推奨1.4.4)。また、女性の尿失禁に対する骨盤底筋トレーニングのコクラン・レビュー(Dumoulin C, et al. 2018, CD005654)でも、症状の改善・治癒に効果があるとされ、エビデンスの確実性は中〜高程度と評価されています。

ただし、ここで重要な区別があります。これらが検証しているのは「指導つきの骨盤底筋トレーニング」であって、ピラティスのレッスンそのものではありません。 ピラティスは骨盤底筋にアプローチしやすい環境をつくる運動ではありますが、治療として検証されたプログラムとは別物です。症状がある場合は、泌尿器科・婦人科や、骨盤底の専門的な指導を受けられる医療機関のほうが確実です。

やりがちな失敗

お尻・内もも・お腹に力が入る

骨盤底筋以外の筋肉で代償している状態です。お尻を触って硬くなるなら、力の入れどころが違います。力を7割に落としてください。

息を止めて締める

腹圧が上がって、かえって骨盤底に下向きの負荷がかかります。必ず吐きながら行ってください。

締めっぱなしにする

「常に締めておくといい」と思って一日中力を入れると、緊張型のトラブルにつながることがあります。締めたら必ずゆるめる。このセットで一回です。

回数を増やしすぎる

多ければいいものではありません。1日5〜10回×2セット程度から。疲労感や違和感が出たら減らしてください。

よくある質問(FAQ)

床でヒップリフトを行う女性(イメージ)

Q. 骨盤底筋が動いているかどうか、自分で確認できますか?
A. 息を吐きながら「尿を途中で止めるときの感覚」を軽く再現すると分かりやすいですが、実際の排尿中に止めるのは繰り返さないでください。お尻や内ももが硬くならない状態で、下腹の奥がわずかに引き上がる感覚が目安です。分かりにくい場合は自己判断で強度を上げず、専門的な指導を受けてください。

Q. どのくらい続ければ変化が出ますか?
A. 個人差がありますが、数週間から数ヶ月です。NICEのガイドラインが第一選択の治療として「少なくとも3か月」の指導つきトレーニングを想定していることからも、短期で判断しないほうが現実的です。

Q. ピラティスに通うだけで骨盤底筋は鍛えられますか?
A. レッスンの内容によります。呼吸と体幹を丁寧に扱うクラスなら入り口になりますが、骨盤底筋そのものを目的にした指導とは限りません。気になる場合は、体験時に「骨盤底筋を意識したい」と伝えて対応を確認してください。

Q. 尿もれがある場合、運動は中止すべきですか?
A. 症状が悪化する動き(ジャンプや強い腹圧がかかる腹筋運動など)は避けてください。そのうえで、まず泌尿器科・婦人科を受診し、運動を続けてよいかを確認するのが順序です。

Q. 産後どのくらいから始めていいですか?
A. 必ず産科医の許可を得てからです。時期の考え方は産後にピラティスはいつから始めていいかにまとめています。

Q. 男性にも骨盤底筋トレーニングは意味がありますか?
A. 男性にも骨盤底筋群はあり、排尿のコントロールに関わります。ただし本記事は女性の尿もれ・産後を前提に書いているため、男性で症状がある場合は泌尿器科で相談してください。

まとめ

マットの上でプランクを行う女性(イメージ)

  • 骨盤底筋は膀胱・子宮・直腸を支え、横隔膜・腹横筋・多裂筋と連動して体幹を安定させる
  • ピラティスの呼吸は骨盤底筋の動きと直結しており、呼吸練習そのものが入り口になる
  • 「強く締める」より、吐きながらふわっと引き上げる感覚を優先する
  • 締めるだけでなくゆるめることも同じくらい大切
  • 指導つきの骨盤底筋トレーニングは第一選択の治療として推奨されているが、ピラティスのレッスンはそれと同じものではない
  • 尿もれ・下垂感が続く場合は運動で様子を見ず、泌尿器科・婦人科へ

見えない筋肉なので手応えを感じにくい部位ですが、変化は日常動作のラクさとして現れます。焦らず、呼吸から始めてみてください。

受診の目安
尿もれの頻度や量が増える、下腹部に「何かが下りてくる」ような感覚がある、
排尿・排便がしにくい、骨盤内や会陰部に痛みがある——こうした場合は運動で様子を見ず、
泌尿器科・婦人科を受診してください。治療中の方は主治医の指示が優先されます。
本記事は診断・治療の代替ではありません。

産後の方は産後にピラティスはいつから始めていい?もあわせてご覧ください。呼吸から入りたい方はピラティスの呼吸の仕方、通う頻度に迷う方はピラティスは週何回通えばいいかが参考になります。

参考にした主な情報

うたぴん
[編集者プロフィール]
NESTA公認パーソナルフィットネストレーナー(NESTA-PFT)
現在はフリーランスで活動する1児の母。学生時代は陸上競技で長距離に取り組み、卒業後はNESTA公認パーソナルフィットネストレーナーとして月間100人以上のクライアントのカラダメンテナンスに従事してきました。現在は育児と仕事の合間にピラティスへ通い、忙しい毎日のなかで続けられるウェルネスを実践しています。「自分に合った運動を、無理なく今の暮らしに取り入れる」——自身の経験をもとに、初心者や子育て中の方の目線でヨガ・ピラティスの情報をお届けしています。
うたぴん
執筆・編集
うたぴん
NESTA公認パーソナルフィットネストレーナー(NESTA-PFT)
現在はフリーランスで活動する1児の母。学生時代は陸上競技で長距離に取り組み、卒業後はNESTA公認パーソナルフィットネストレーナーとして月間100人以上のクライアントのカラダメンテナンスに従事してきました。現在は育児と仕事の合間にピラティスへ通い、忙しい毎日のなかで続けられるウェルネスを実践しています。「自分に合った運動を、無理なく今の暮らしに取り入れる」——自身の経験をもとに、初心者や子育て中の方の目線でヨガ・ピラティスの情報をお届けしています。